【読書】処方箋のないクリニック|著:仙川環(出版:小学館)

 

「検査をして、病名をつけ、薬を処方したり手術を勧める。それはそれで必要なことだけど、それだけでは足りない。」

P.138 総合内科 本日開院 より
『処方箋のないクリニック』著:仙川環

 

『書店員さん絶賛の医療小説』という口コミを多く見かけたので気になって読んでみました。
書評というより感想に近くなってしまうかもしれませんが、ぜひご覧ください。

 

 

 

1.概要

この本の概要ですが、タイトルにもあるように医療を内容とした小説です。


内容に関しては凄腕名医がめっちゃすごい手術をするドラマチックな内容や、派閥争いのために医療ミスで患者を死なせてしまうなどのミステリーという感じではなく、この本のあらすじにも記されていますが、非常に心の温まるお話でした。

 

いろんなバックボーンを抱えた患者が来院してきますが、主人公の先生は一人ひとりに寄り添いその患者の問題を解決していきます。

 

2.著者について

著者の仙川環さんですが、人物や来歴などについて検索させていただきまして...。
恥ずかしながら初めて知ったのですが医療ミステリーの第一人者なのですね!

著者自身が新聞社に勤められていた経験があり、医療・介護分野の取材を担当していたという経歴を拝見し、また、日本医療小説大賞にもノミネートされているとのことで、それは医療分野に詳しいよなぁと納得しました。

(勝手なイメージなのですが、医療小説×ミステリーは書くのが難しそうだと思っています。)

 

 
日本医療小説大賞
本賞は、国民の医療や医療制度に対する興味を喚起する小説を顕彰することで、医療関係者と国民とのより良い信頼関係の構築を図り、日本の医療に対する国民の理解と共感を得るとともに、わが国の活字文化の推進に寄与することを目的として、平成23年度に創設したものである。

引用:日本医師会 日医NEWSより

第4回日本医療小説大賞/受賞候補4作品が決定

 

3.登場人物について

この本に出てくる登場人物について紹介させてください。
話の中心となる人物のみのご紹介となりますがご了承ください。

主人公:青島 倫太郎

青島総合病院の敷地内にある古い洋館で医療に関するよろず相談をしている開業医。
病院や学界の理事でもあるすごい人物なのだが、医者らしくない格好で来院者に「本当に大丈夫?」という印象を与えてしまうことも...

小泉 ミカ

青島倫太郎の運営する総合内科クリニックに勤めるナース。
オレンジ色のナース服に身を包む。
なぜ青島倫太郎と一緒に勤めているのかはぜひ本書をご覧ください。

 

 

 

4.本の構成について

第1章 もみじドライバー
第2章 サプリ教信者
第3章 総合内科 本日開院
第4章 理想のパートナー
第5章 血圧陰謀論
第6章 奇跡のメソッド


全6章に渡って構成されていて、一章につき一遍の短編小説となっています。
各章が短編となっているので非常に読みやすい印象を受けました。

 

5.本を読んでみての感想

よろず相談の必要性を説く主人公の青島倫太郎に共感する医療従事者の方も多いのではないでしょうか。

たしかに短い診療時間では医者も聞きたいことは聞けず、患者も話したいことは話せないよなと感じます。
しかし、かといって、一人ひとりに時間をかけていれば病院がまともに機能しなくなるのも事実でしょう。
そこが非常にジレンマのように思える現代の医療問題ですよね。

私自身も過去に心療内科にかかっていたことがありますが、そこでは3分くらいの相談のあとに、そこの医者が独自開発した質問紙に答えたところ、

「こことここの質問がYESなら、あなたはうつ病です」という診断をされ、不信感を覚えました。
心にかかわる問題はしっかり話を聞いてほしいなと思ったのと同時に、どんどん増えていってるという心療内科・精神科だと来院者が飽和しているのかなとも思ったのを思い出します。

そんな時に青島先生のような方がいてもいいのではないかなぁと。
青島先生は各患者に寄り添い、しっかりと解決策を提案してくれる先生でした。

非常にハートフルな作品となっていますので、心温まりたいという方におススメの一冊です。